大規模修繕工事の先延ばしによるリスクをしっかり把握しましょう
大規模修繕工事は建物の長寿命化と安全確保のために重要な取り組みですが、管理組合にとっては資金的な制約や他の優先事項によって、工事を先延ばしにせざるを得ない場面もあります。
当社のこれまでの経験からも、管理組合にとって非常に悩ましい課題であることも十分理解しております。
特に、金銭的な余裕がない場合に、工事の先延ばしは避けられない選択となることがあります。
しかし一方で、長期的な視野で考えると、先延ばしにすることが結果的により高いコストを生む可能性があるということも考える必要があります。
大規模修繕工事の先延ばしによるリスク
1. 建物の劣化と安全性の低下
大規模修繕工事を先延ばしすることで、建物の劣化が進行し、安全性が低下するリスクがあります。
建物の損傷は経年劣化によって徐々に進行していきますが、その劣化は年数を増すごとにさらに加速することになります。
躯体に関して例を挙げると、雨水の侵入が進むことで漏水が発生するのはもちろん、構造的にも大きなダメージをうけます。結果として、居住者・近隣住民の安全が脅かされる可能性があります。
2. 修繕費用の増加
修繕が必要な箇所が拡大することで費用が増加するデメリットがあります。
小さな損傷や劣化箇所が放置されると、その状態が悪化し、範囲が拡大します。また、小さな損傷が大きな損傷を引き起こす可能性も十分に考えられます。建物は様々な要素が複合的に影響しあって成り立っているため、内部構造に支障が出た際は膨大な修繕費用を伴うことになります。
また、問題が急速に悪化した際は、緊急の対応が必要となり、通常よりも費用が高くつく傾向にあります。
3. 住民の不満と信頼の低下
大規模修繕工事が必要な箇所が放置されると、生活環境に悪影響を及ぼします。
漏水や給排水の問題、建物の外観の劣化などが、快適な生活を妨げる要因として考えられるためです。建物の劣化や安全性への懸念から、住民は不安をかかえ、管理組合運営に対して不信感を抱くようになります。
延期をすることで考えられるリスクを周知したうえ、修繕計画と資金計画を現実的で実態に即したものを作成しておきましょう。
4. 不動産価値の低下
不動産の価値は、建物の状態や品質に強く影響されます。
適切な修繕がなされていない建物は、見た目や機能性が損なわれるため、資産価値が低下する傾向にあります。将来の売却や賃貸を見据えて、資産価値を維持・向上させるためにも建物の健全性は最優先に考えるべきことです。
大規模修繕工事 先延ばしの要因
大規模修繕の先延ばしの一番の要因は資金的な問題です。
必要性は十分に理解をしているものの、現状の修繕積立金ではとても工事を行うことができないという状況は大いに考えられます。資金的な負担を軽減する方法として、以下のような選択が考えられますので参考にしてみてください。
1. 管理組合による資金計画の見直し
現在の長期修繕計画の見直しをし、今後どのような工事が想定されるか、いくらくらいの資金が必要であるか試算します。
工事時期の分散をしたり、修繕積立金の値上げを検討する必要があれば早い段階から手を打つことが可能です。計画の時点で現状を全住民が把握することで、修繕や積立金の値上げに関心と理解を持ってもらい、その後の合意形成がスムーズに進む可能性が高くなります。
2. 補助金・助成金の利用
地方自治体や関連団体から提供されている補助金や助成金を活用することで、資金の捻出がしやすくなる場合があります。
ただし、自治体ごとに用意している補助金・助成金制度は異なりますので、確認が必要です。
また、助成金制度であれば条件を満たしていれば支給されますが、補助金制度の場合は期間や枠に限りがあり、審査が通らないともらえないため、計画段階では加算しにくいというデメリットがあります。
手続きは複雑で面倒な部分もありますが、返済義務がないため積極的に活用したいものです。
3. ローンの活用
銀行や金融機関からの低金利ローンを利用して資金を調達することで、工事費用にあてることができます。
住宅金融支援機構では管理組合向けに低金利でニーズに応じたプランを選択することができます。固定金利ということもあり、返済計画がたてやすいため、次の大規模修繕工事を見据えた長期修繕計画の作成も容易にできます。
4. 信頼のおける施工業者の選定
せっかく貯めた大切な資金も低品質で満足のいく工事でなかったら元も子もありません。
質の高い工事を適正価格で行ってこそ価値のあるものになります。優良な施工業者を選定することは、工事費用を節約することにつながります。信頼のおける施工業者のポイントは別コラムでご説明したいと思いますのでそちらをご参照ください。
以上、建物の状況に応じて適切な判断と資金計画を行い、快適な住環境を維持できるよう努めていきましょう。