適切な修繕積立金の確保に向けた段階増額積立方式の引上げ方法について
改定の背景
マンションの長寿命化と安全・快適な居住環境を維持するために、大規模修繕工事は避けて通れない重要な課題です。
そのため、修繕積立金を安定的に確保し、計画的に修繕工事を実施することが必要不可欠です。
しかし、修繕積立金の額の設定や積立方法が適切でない場合、将来的な工事資金の不足が問題となり、修繕が遅延したり、追加の負担が区分所有者(住民)にかかるリスクがあります。
まず、修繕積立金の積立方式には、主に二つの方式があります。
一つは「均等積立方式」であり、これは計画期間全体を通じて毎月均等な金額(一定額)を積み立てる方法です。
もう一つは「段階増額積立方式」で、初期の積立額を抑え、徐々に積立金を増加させていく方式です。
一般的には、均等積立方式が長期的に安定した修繕積立金の確保を実現できるため望ましいとされています。
しかし、多くのマンションで段階増額積立方式が採用されている実情があります。この方式は、購入当初の居住者の経済的な負担を軽減する一方で、後年になって積立金が大幅に増加するリスクを抱えています。
実際に、増額が予定通り進まず、修繕積立金が不足する事例も見受けられます。
このような状況を受け、国土交通省は「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」(令和5年8月)を設置し、適切な修繕積立金の確保に向けた議論を行ってきました。この議論の結果を基に、マンション管理の標準管理規約や管理計画認定制度の見直しが進められ、その中で「段階増額積立方式における適切な引上げの考え方」が検討されました。
こちらは国交省のホームページより、マンション管理に関する各種ガイドライン等をご確認いただけます。検討の際の参考資料として大いにご活用いただけると思いますので、是非ご参照ください。
出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
段階増額積立方式における課題
段階増額積立方式には、当初の月々の積立額を抑えられるというメリットがありますが、一方で次のようなリスクが伴います。
増額計画の未達: 計画通りに積立額を引き上げられない場合、将来的に必要な修繕工事の資金が不足します。
住区分所有者への負担: 計画後期に大幅な増額が必要となると、区分所有者に急激な経済的負担がかかる可能性があります。
合意形成の困難: 特に高額な修繕工事が近づくタイミングで、積立金の大幅な引き上げが必要になると、区分所有者間での合意形成が難航することがあります。
これらの課題に対応するために、段階増額積立方式における引上げの適切な指針が求められました。
改定の概要
国土交通省の検討会では、段階増額積立方式における適切な引上げ方法を明確化するためのガイドラインが策定されました。
このガイドラインは、「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」および「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に反映され、今後のマンション管理の標準となります。
【段階増額積立方式における適切な引上げの考え方】
初期積立額: 均等積立方式と比較して、計画当初の月々の修繕積立金の額は「基準額」の0.6倍以上とする。
最終積立額: 計画の最終段階における積立額は、「基準額」の1.1倍以内とする。
このように、段階増額積立方式を採用する場合でも、計画期間を通じて大幅な積立金の変動を避けるため、増額の範囲をあらかじめ明確に定めることが求められています。
これにより、修繕積立金の不足を防ぐとともに、区分所有者の負担が急激に増加しないように配慮されます。
ガイドラインの実施効果
安定的な修繕積立金の確保: 段階増額積立方式でも、初期から計画的に引上げを行うことで、修繕積立金の不足リスクが軽減されます。
また、急激な引上げを避け、予測可能な増額計画を設定することで、住民の経済的負担を平準化します。
計画当初から増額の方針が明示されているため、区分所有者間での合意形成がスムーズになります。
特に、修繕積立金の増額が計画通りに進められることが予測できるため、大規模修繕の実施時にもトラブルが発生しにくくなります。
今後の対応
マンションの管理組合や管理会社は、このガイドラインを参考にしながら、長期修繕計画を策定し、段階増額積立方式の積立金引上げを計画的に進める必要があります。
また、区分所有者には、修繕積立金の重要性を理解してもらい、適切な時期に増額することの必要性を説明することが大切です。
ガイドラインに従った積立金の設定は、マンションの資産価値を維持し、住民全体が快適で安心して暮らせる環境を守るための基盤となります。特に、長期的な視点での修繕計画と適切な資金管理が、マンション全体の健全な運営につながります。
ただし、「均等積立方式」と「段階積立方式」のいずれかを採用しているにかかわらず、定期的(5年間隔ごと)の長期修繕計画及び修繕積立金の見直しは必要です。
マンションの劣化状況や個々の事情、社会的ニーズの変化により、修繕の内容や周期が変わってくることは大いにあります。
また昨今では建設工事費用が急激に高騰したこともあり、予算が大幅に上がることも想定されるからです。
まとめ
段階増額積立方式は、区分所有者の経済的負担を軽減しつつ、将来的な修繕工事の資金を確保するための有効な方法です。
しかし、適切な増額計画を策定しないと、積立金の不足が問題となるリスクがあります。
今回のガイドライン改定により、段階増額積立方式の適切な運用が可能となり、マンションの長期的な健全運営に貢献することが期待されます。
マンション全体で合意形成を図りながら、計画的な修繕積立金の確保に向けた取り組みを進めていきましょう。